ケース面接 - 誤ったアプローチからの脱却

普段、様々な方のケース面接対策を、マンツーマンで行っています。そこから得た知見を紹介していきます。安易に模範解答を示すのではなく、回答するうえで持っておくべき「視点」について、事例をもとに詳細に解説します

実践ケース問題01: 「温泉旅館チェーンの方向性」

本記事の概要

 今回のケース問題は、「大局的」「マクロ的」な視点を持って、問題を整理することについて、例題を元に解説しました。

 

【ケース問題】

 全国に複数の温泉旅館を持つ、業界中堅の温泉旅館チェーンが、利益減少に見舞われています。

ある日、この温泉旅館チェーンのオーナーから、以下の相談を受けました。

  • 業績を回復させる施策を打ちたい。思い付きではあるが、例えば、採算の悪い店舗をつぶして新しい場所に建てるべきではないかと考えている。今後、弊社は、どうすればよいだろうか。

オーナーの意思決定のために、あなたならばどのようなことを検証しますか。 

 

 

「大まかな方向性」をどうするか、まず検証する

 まず、このようなケースを解くうえでは、「マクロ的な視点」から、「どのあたりに課題があるか、解決すべきポイントが多そうか」を、比較的「労力の少ない方法」で検証し、「大まかな方向性」を決めることが重要です。反対に、「いきなり詳細な検証/分析」に入るのは、筋の良くないアプローチといわれています。

 

 では、具体的に今回のケースで説明します。そもそも、単純に売上が下がっていると言っても、様々な理由が想定されます。まず、売上を大まかに分けると、今回の温泉旅館業界の市場規模は、「温泉地」ごとに分類可能です。さらに、各温泉地の市場規模は、「自チェーン」と「競合チェーン」に分けることが可能です。

  • 「温泉旅館業界 市場規模」 = 「草津 市場規模」 + 「熱海 市場規模」 + 「箱根市場規模」+…
  • 「温泉地別 市場規模」 = 「自チェーン旅館A 売上」+ 「競合旅館B 売上」 + 「競合旅館C 売上」+…

 

※分け方は様々あり、その視点の議論もあってしかるべきですが、紙面の都合上、今回はこの簡易的な分け方で進めます。重要な論点さえ拾えれば、分け方は何でも良いです。

 

 

 これを、売上が下がる個別要因に分解すると、例えば以下の様になります。(注:紙面の都合上、網羅性を若干無視します)

  1. 業界全体として(ほとんどすべての温泉地にて)、売上が低下
  2. 特定の温泉地にて売上が低下(温泉地によって、売上推移にばらつきがある)
  3. 温泉地内にて、競合プレーヤーの数が増えていて、1旅館当たりのパイが減少
  4. 温泉地内にて、既存の競合旅館に客を取られている(自チェーン旅館は減少/競合は増加)

 

 

 上記のどの部分が原因となって、「自チェーン全体の売上」が下がっているのかに応じて、この先の詳細な検討の方向性が異なります。

 今回、社長さんは、「一部旅館を閉めて、新しい場所に開店する」という考えを持っていました。しかし、この方向性の優先度が高いのは、上記の「B」「C」の場合です。

 例えば、「A」と「D」が該当する場合、「一部旅館を閉めて、新しい場所に開店する」打ち手が、有効である可能性は低くなります。この場合、例えば「各温泉旅館の魅力を上げる」「不採算旅館の閉店(のみ)を行う」などの方向性で検証を進めるのであれば、有効な結果が出てくる可能性が高くなります。

 

※1つ注意ですが、上記は、あくまで“可能性”の問題です。もちろん、上記の例の場合であっても、いろいろと細かいデータを見ながら検証を進めていくうちに、最終的な打ち手が「一部旅館を閉めて、新しい場所に開店する」となる可能性はあります。なぜならば、「大きな問題」がそこであったとしても、現実的に見た「有効な解決策」が、そこに存在するとは限らないからです。

 

 

 

いきなり詳細なデータを収集/分析すると、膨大な時間と労力が無駄になるリスクがある

 このようなケースで一番よくないのは、いきなり個別の細かいデータを集めて検証することです。例えば、「各旅館の接客/料理の質調査」「利用顧客データ」「競合旅館との満足度比較」などのデータは、詳細分析に当たり、データの収集と分析の両面でとても時間と労力がかかります。

 しかし、上記の「データを収集」している時点で、すでに大きな“仮定”が存在します。それは、「個々の旅館の魅力度が低いor競合と比して負けている」といったものです。そのため、もし「市場規模の減少が原因であり、むしろ個別旅館の温泉地内シェアは伸びている(Aが該当、Dは否定)」といった現状があった場合、集めたデータを分析しても良い結果が出る可能性は低くなります。

 さらに悪いことに、手に入れたデータが詳細なデータであるため、やろうとすれば多くの種類の分析が可能であり、いつまでも筋の悪い分析をし続けながらも、方向性が間違っていることに気付かず、膨大な時間を消費する可能性もあります。

 

 

まとめ: 「大まかな方向性」について、多少なりとも言及する

 以上のことから、今回の問題を解くうえで、まずは「一部旅館を閉めて、新しい場所に開店する」といった、そもそもの「大まかな方向性」が正しいか否かを、全体から分析する必要があります。そのため、当然ですが、アウトプットである今回提出された回答においても、まず何らかの「大まかな方向性」への言及が必須です。

 

今回は、社長さんから「一部旅館を閉めて、新しい場所に開店する」という“仮説”が出てきています。この“仮説”が「それなりに考えたうえでの発言」と仮定すれば、それが“結果として”正しい可能性もあるので、「大まかな方向性」の具体的検証が、この1部分(一部旅館を閉めて、新しい場所に開店する)のみであっても、“間違い”とは言えないでしょう。

 

 しかし「詳細な検証内容」に行きつくまでの、「大まかな方向性」に対する記述が、全くない(「社長さんの仮説をうのみにする」ことを含む)のは、考えるべきステップを抜かしており、良い回答とは言えないでしょう。実際の仕事でそのようなことを行えば、大きく時間と労力を無駄にすることになりかねません。

 くれぐれも。いきなり細かい話に入らず、まず全体像を把握するよう心がけましょう。