ケース面接 - 誤ったアプローチからの脱却

普段、様々な方のケース面接対策を、マンツーマンで行っています。そこから得た知見を紹介していきます。安易に模範解答を示すのではなく、回答するうえで持っておくべき「視点」について、事例をもとに詳細に解説します

実践ケース問題02: 「大学研究者によるVR事業立ち上げ」

本記事の概要

 今回は、「問題文をよく読む」ことの重要性と、一般論ではなくテーマに合わせた回答を行うことの重要性について、解説致します。

 

【ケース問題】

 現在、あなたは友達から相談を受けています。

この友達は、昔から大学の工学研究科でVR(Virtual Reality)の研究をしていましたが、つい最近、大学の研究と並行して、VRのベンチャー企業を立ち上げました。

この友達にヒアリングしたところ、

  • 「VRを広く普及させ、多くの人にVRを楽しんでもらいたい」

というのを、会社設立のモチベーションとしているようです。

 この会社は、まだ立ち上がったばかりです。まず、この会社の今後の方針・戦略を策定するにあたって、あなたは、コンサルタントとして、どのようなサポートやアドバイスを行うべきでしょうか。  

 

 

問題文をよく読み、相談相手のことを、深く理解しよう

 まず、コンサルティングを行う(→ケース問題を解くうえでも同様)では、「相談相手」のことをよく理解し、「相談相手」に合わせた提案を行うのが望ましいです。逆に、「一般論」的(誰にでも、競合でも適用可能)な提案を行うのは、“不可”ではありませんが、あまり良い提案とは言えない場合が多いです。

 

 さて、上記の内容を、今回のケース問題にあてはめるとどうなるのでしょうか。

まず、今回のケース問題は、

  • 新規事業として、VRで売上を上げるには?

といった、“一般的”な提案しかできない、単純なケース問題ではなく、

  • 「工学研究科」でVRの「研究」を行っている友達から...

という、比較的具体性のあるケース問題でした。そのことの意味を考えてみましょう。

 

 

友達には、強みがある可能性が高い

 まず、友達は、大学でVRの研究をしているため、もしかしたら「何かしらの技術や特許」を持っているのかもしれません。(だからこそ、起業したとも考えられます)

 また“特許”を持っていなくても、「何かしらの技術/分野に詳しい」可能性は非常に高いです。(映像を高精度で再現する技術、動きや位置の認識技術 など)

 友達は、上記のような何かしらの“強み”を持っている可能性高いため、会社の戦略において、その“強み”を活かせないか、検討があってしかるべきでしょう。

 どんな強みがあるかは、問題文に記載されていませんが、「大学でVRを研究」の部分から、“強み”がある可能性が高いことは読み取れるので、たとえ「記述式ケース問題」であっても、そこに言及したいです。また「面接式ケース問題」であれば、面接官に「友達は、どのような強みがあるのか」といった質問をすべきでしょう。

 

 

友達の会社は、資金・ノウハウ面で劣る上に、時間や労力を100%事業にかけられない

 次に、この会社はどのような事業を展開すべきでしょうか。まず、今回の場合、“王道”を行くような、“全事業の展開”を試みても、負ける可能性が高いです。なぜならば、

  • 友達の会社は起業したばかりである。(Sonyなどの“大企業”と比べて、資金・ノウハウが劣っている)
  • 「VR研究」と「VR事業」が並行して行われる。(友達は、VR事業に対して100%の時間と労力をかけない)

という現状があるからです。

 Sonyのような大企業であれば、資金もたくさんありますし、いろいろな方面の技術やノウハウ(ヘッドマウントディスプレイという機械の製造、VRで遊ぶコンテンツの作成、プラットフォームを形成・維持 など)も持っているため、やろうと思えば、VRのあらゆる事業を試しに行うことが可能でしょう。しかし、起業したばかりの会社が、このようなことを行うのは、上記の理由から困難です。

 

 以上の様に、大企業が競合として存在する中で、“王道”を行く全事業の展開を行っても、ハンデキャップが大きいです(もちろん、この理由だけを持って“不可能”と結論づけることはできません)。さらに悪いことに、友達は、「VR研究と並行」しており、VR事業に100%の労力をつぎ込めません。勝てる見込みは、非常に低いでしょう。

 

 このような場合、何かしらの「事業領域の絞り込み」をすべきでしょう。例をあげると、

  • 「ニッチな需要に適応したサービス・商品」を展開することで、大企業とは違う領域で勝負する
  • 特定の領域・技術(映像再現技術など)のみに特化し、その領域でシェアを伸ばす。(今回の場合、大学の研究内容と紐づけることになるでしょう)

などです。

 ここで、さらに一つ思い出していただきたいのは、友達の起業目的が「VRを広く普及させ、多くの人にVRを楽しんでもらいたい」というものであり、「たくさんお金を稼ぎたい or 大企業を作りたい」といったものではないことです。そのため、「事業領域の絞り込み」を行うこと事態は、事業の目的に反しないでしょう。

 

 

まとめ:  “3C”自社について、検証を忘れないようにしよう。

以上の様に、友達の現状について分析すると、いろいろなことがわかります。

  • ・Seeds(強み): VRに関する何かしらの技術がある可能性が高い
  • ・制約条件(弱み): 大企業(Sonyなど)と比べて資金・技術力に劣り、さらに事業に100%の時間と労力を使えない

 また、起業目的を考慮すると、必ずしも、「たくさんお金を稼げる or 大企業まで成長させる」ことが目的でなく、「事業領域の絞り込み」などをしても、特に問題ないことが想定されます。

 

 上記の内容は、“3C”(注: 市場、競合、自社)のフレームで表現すれば、“自社”の部分の分析に当たります。このような「具体的企業名がないケース面接」の練習を行うと、“競合”や“市場”について検証がなされていても、“自社”については「検証がない場合」や、「“問題文そのまま”レベルの言及のみ」である方が多いです。

 この3Cの視点うち、どの部分が最も重要かは、ケース問題に応じて異なります。どの視点が重要かを見極める上でも、3つの視点を一通り検証するよう、心がけましょう。