ケース面接 - 誤ったアプローチからの脱却

普段、様々な方のケース面接対策を、マンツーマンで行っています。そこから得た知見を紹介していきます。安易に模範解答を示すのではなく、回答するうえで持っておくべき「視点」について、事例をもとに詳細に解説します

実践ケース問題06: 「業界2位企業の新商品開発」

本記事の概要

 今回の解説では、「消費者視点」だけではなく、それ以外の個所を深く考えることについて解説しました。

ケース問題

 飲料メーカーにて、野菜ジュースの新商品開発を担当している部署があります。この会社の野菜ジュースは、市場シェア2位に位置しています。

 さて、この度新商品を開発し、市場シェアUPを試みることになりました。商品としては、500ml以下の飲みきりサイズの容器による野菜ジュースを開発することが決定しています。

 あなたは、この部署の担当者から、市場シェアUPのための新商品開発方法について相談を受けました。コンサルタントとして、どのような提言をすべきでしょうか。

 

 

 

解説: 消費者ニーズ以外に何を考慮すべきか

 さて、まず新しい商品を開発する上で、「消費者のニーズ」を把握するのは大前提であり、ある意味「当たり前」です。これは、どの回答者でも言及したと想定されます。

 しかし、ここで考えてみてほしいのですが、「消費者のニーズを満たした“良い”商品」を開発できれば、「売上UP」→「シェアUP」の流れが、きれいに回るのでしょうか。ここでは、一度消費者ニーズ以外に考慮すべきことはないのか、整理したいと思います。

 

 

ポイント: 消費者ではなく、提供者側の構造を整理してみる

 「消費者の視点」を考えるのは、有る意味当たり前なので、メーカーなどの「提供者(売る側の視点)」について整理してみます。

 

 まず競合環境はどうでしょうか。いったん、イメージを持ってもらうため、「現実の日本」における、野菜ジュースメーカーの順位を見たいと思います。(大型容器をいったん省きました)

(もしかしたら間違っているかもしれませんが、仮に間違っていたとしても、結論に差は出ないため、いったんこの前提でイメージしてください。)

 

 また、商品を購入/販売する場所(チャネル)で見るとどうでしょうか。大きなのは、以下の辺りかと思います。

※それ以外にも、ホームセンター、ドラッグストア、自販機、法人/業務用(弁当屋など)様々ありますが、いったん無視します。

 

 さて、ここでいったん“消費者目線”を入れて、上記のチャネルを整理してみましょう。細かく分けるときりがないので、いったん下の2つを抽出します

  • A) その日にすぐ飲む需要 ⇒ 単品買いが多い: CVS、SM(駅前やオフィス近くの小さい店舗)
  • B) 後から飲む需要 ⇒ まとめ買いも多い: ネット通販、SM(住宅地にある大きい店舗)

 

ポイント: 販売チャネルの違いに応じた新商品開発が必要

 ここで、上記のAとBのチャネルの違いに注目してください。以下2つ記載します。

 まず1つ目は、当たり前ですが、消費者の求めるニーズが異なります。ここでは詳細を割愛しますが、「価格感度」「トライアル・リピート需要」など、考えていくと様々な違いが出てきます。そのため、チャネルに合わせた商品の開発/展開が、1つ打ち手の方向性として必要になるかもしれません。

 

 そして、2つ目が今回の記事の趣旨なのですが、「棚に商品を置いてもらえるか否か」という点で、業界1位と2位で立ち位置が大きく異なります。

 まず、「A」について考えてみましょう。特にCVSを想像すると解りやすいのですが、棚が小さいため、おいてもらえる商品の種類が限られます。具体的に、CVSの店舗の棚を想像してほしいのですが、業界1位の野菜生活は、複数の商品が並べられています。一方で。業界2位の充実野菜は、おいてある商品数が、相対的視点・絶対的視点どちらで見ても少ないです。

 一方、「B」について考えてみます。そもそも、ネット通販や大型SMというのは、商品を置く場所がたっぷりあります。そのため、業界2位の商品であっても、比較的多くの商品を置いてもらうことが可能です。特にネット通販は、「ロングテール」で知られるように、品揃えの多さが命なので、業界下位のマイナー商品であっても置いてもらいやすいでしょう。

 

 あたり前ではありますが、そもそも「商品が置いていない」状態では、売上は「0円」です。そのため、まず、商品を置いてもらう必要があります。

 そのため、「A」の様なCVSの場合、業界2位としては、まず「置いてもらえる商品」というポイントで、業界1位企業よりも難易度が高くなります。そのため、「消費者に支持される商品」を作るという視点だけではなく、「小売店の商品部や店舗の方々から、“支持される”商品」を作るという視点が必要になります。

 これらは似ている(消費者のニーズに合っていれば、両方とも満たされる)ように見えますが、現実問題としてかなり異なります。極端な例をあげると、「今までにない斬新な商品こそ積極的に採用したい」と小売店が考えていた場合、これは「愚直に消費者のニーズをくみ取った商品」を作っても、採用していただけないでしょう。また、「小売店側の利益率の高い商品がほしい」といった、価格や利益の話の場合も同様です。

 

 一方、「A」のCVSによる取り扱いをいったんあきらめ、「B」のネット通販に注力すればよいと考える場合も、注意が必要です。

 そもそも、「B」はまとめ買いの要素が強い以上、「リピート」的な要素が強くなります。しかし、リピートしてもらうには、どこかでその商品を「トライアル」してもらう必要があります。この時に、新商品の「トライアル」需要に強い、CVSの様な「A」のチャネルによる商品取扱いがなければ、ネット通販にて大きな売上を上げることは、難易度が高いでしょう(大型SMによるトライアル需要のみでは、大きな売上をあげにくい)。

 

 以上の点を考慮すると、打ち手の方向性が変わってきます。まず、いったん「A」のCVSに取り扱いを狙う場合、

  • プラス一種類おいてもらえるような新商品の開発
  • 既存の自社商品と置き換えるような新商品の開発

のどちらにするかで、新商品の性質が大きく異なってきます。「プラス1種類」であれば、「斬新な新商品」「奇をてらったような新商品」も可能です。しかし、「置き換え」であれば、既存商品を強化するような方向性がメインになるでしょう(失敗したときのリスクが大きいため)。

 また、「B」のネット通販をメインとする場合、何かしらの「トライアル」購買を促す仕組みや展開プランが、セットで必要となるでしょう。

 

 

まとめ: 競合や自社(チャネル)の状況など、様々な要因から、「消費者にあった商品」の内容も変化する

 以上の様に、「業界2位」という制約を踏まえたうえで、「新商品が満たすべき要件」や「新商品展開プラン」を考える必要が出てきます。

 これは、良くある「3C」のフレームワークのうち、「市場(消費者)」だけでなく、「自社」や「競合」を考えることで出てきます。また、「自社」の中に、商品が売れるまでの流れの考えを加え、「小売店」という主体の意思を考慮することも必要です。(消費者にとっては、メーカーも小売りも、「商品提供者」という視点で見れば、違いはありません)。

 

 今回のテーマは、あくまで「新商品開発」でした。しかし、「我々は、消費者に受ける商品を開発した。後の展開施策は、マーケティング部や営業部の仕事なのでよろしく」といった丸投げ姿勢では、高い売上を達成することはできません。商品を売り切るところまで考える意思があれば、自然と「消費者ニーズ」のみでは成り立たないことがわかってくると思います。

 ついつい、消費者ニーズばかりに気を取られてしまいますが、それ以外の「広い視点」を忘れないようにしましょう。