実践ケース問題04: 「オリンピックに向けた交通網再開発」
本記事のテーマ
今回は、例題を元に、より踏み込んだ回答を出すという視点について、解説致します。
【ケース問題】
あなたは国の交通整備を担当する組織に所属しています。
現在、組織内で、2020年の東京オリンピックにおいて、移動中の体験(例えば満員電車など)が、外国人観光客に対する日本のイメージダウンになるのではないかという懸念があります。
そこであなたは、オリンピック期間中に不満が生まれそうな移動体験を解消するための施策を考えることになりました。
担当官として以下の問いにお答えください。
- 外国人観光客が移動に際して不満に思うであろうことについて整理してください。
- その不満の中から重要なものを特定し、解決する施策を具体的にあげてください
- 本記事のテーマ
- 解説:一般論ではなく、あくまで「オリンピック」対策を求められている。
- 一般論的な解答は、そもそも依頼者の質問に答えたことにならない可能性もある
- 補足:「回答には記載していないが、頭ではわかっていた」という場合は?
解説:一般論ではなく、あくまで「オリンピック」対策を求められている。
今回のケース問題は、身近な話題であり、人による知識量の違いも小さいため、取り組みやすいと思います。さて、実はこのようなケースを出すと、「一般論」的な交通網の改善方法を上げる方が多いです。しかし、本当にそれでよいのかどうか、考えてみたいと思います。
今回、一つ思い出していただきたいのは、「オリンピック」イベントを念頭に置いた対策を求められているということです。(単純な、交通・移動の改善対策ではありません)
具体例として、「海外から来る方にとって、交通網・案内が解りにくい」という問題意識をベースに考えてみましょう。この「解りにくさ」というのは、オリンピックの有無に関わらず、今現在も発生している問題だと推定されます。そして、当然ですが、この問題への対策が、現在進行形で議論され、行われているはずです。
しかし、繰り返しになりますが、今回求められているのは、オリンピックに対する対策です。
その点を考慮すると、この問題文を読んだ上で、まず「現状分析」から「問題点特定」を行う上で意識したいのは、
- 「現在・平時の状況」から「オリンピック」の状況に変化することで、「新たに発生する問題」もしくは「より深刻になる問題」は何か
ということです。
なかなかイメージを持ちにくいと思いますので、2つの例を記します。
【例①】
- 現在、海外からの旅行客は、既存の案内板を見ても解らない場合、駅員(係員)さんに質問することで解決していると想定される。
- しかし、オリンピックになれば、「旅行者の総数が現在よりも増える」「競技開始時刻に合わせて、一部の時間帯に旅行者の移動が集中する」などの理由から、現状の駅員さんによる案内では、物理的に対応しきれなくなる可能性が高い。
- そのため、オリンピックまでに、「新たな対策の導入」や「現状の対策の強化」を行わなくてはならない。
【例② 】
- オリンピック時には、現在より「海外からの旅行者の総数が増加」する。
- これは、単純に交通機関の利用者が増加するだけでなく、「東京の交通手段に慣れていない人の割合が増加」することになるため、「交通網の混乱・事故・遅延」などの発生リスクが高くなる。
- 「遅延」は、最悪の場合、オリンピック競技開始時間への遅刻につながる可能性があり、これは利用者にとって極めて「実害」が大きい、最悪の事態である。
- 特に、「交通網の遅延」は移動者本人に何ら責任がない場合が多く、移動者が持つ不満は非常に大きいと想定される(仮に、「道に迷った」などが時間に間に合わない原因であれば、「下調べ不足」のような移動者本人の責任も存在する)。
- このような、「交通網の混乱・事故・遅延の発生リスクの増加」を食い止めるか、発生後の速やかな現状回復のための対策を講じる必要がある。
※1つ目の例は、「案内のわかりにくさ」を問題点としていることに何ら変わりがありません。しかし、このような踏み込んだ記載とすることで、オリンピックにおいて、より深刻になる問題・対策強化が必要な部分が、明確になります。
※2つ目の例においても、原因の1つに「案内のわかりにくさ」があります。しかし、対策の考案において、「案内のわかりにくさ」ではなく、むしろ他の部分に対策を講じる流れになっています。
一般論的な解答は、そもそも依頼者の質問に答えたことにならない可能性もある
詳しくは、下記の記事でも解説しましたが、他のテーマ(競合企業)にも当てはまるような、「一般論」的な問題や解決策というのは、あまり好ましくない場合が多いです。
特に、今回の問題の場合、一般論的な回答は、「質問に回答したことにならない」可能性があるという懸念があります。
この記事を読んでいるかたの中には、もしかしたら、「オリンピック特有の問題に起因しない対策であったとしても、十分に高い効果がオリンピックに対しても見込める施策であれば、問題ないのではないか」と感じた方がいるかもしれません。
しかし、この依頼をした人物(例:担当官の上司)が背後にいるはずであり、この依頼主は
- 「東京オリンピックにおける、外国人観光客に対する日本のイメージダウン」
を懸念しています。そして、おそらく
- 「平時の対策は、別の場所や担当官にて議論されている」
可能性が高いです。
その場合、この担当官から「オリンピック特有の問題に起因しない対策」を提示し、それが仮に効果が高い施策であったとしても、依頼主の“質問に答えた”ことにはならなくなります。上司から、「それについては、別所ですでに検討・実施が始まっている」などと、言われてしまうかもしれません。
以上の様に、「オリンピック向け対策を実施しても、オリンピックと関係ない対策と比べて、“桁違い”に効果が小さい。そのため、そもそもオリンピック向け対策を行う意味はない」といった状況や分析を付帯した「極めて特殊な状況下」でない限り、依頼主の“質問に答える”という意味で、「オリンピックに合わせた問題点をまず特定し、次にその対策を提示する」のが望ましいです。
補足:「回答には記載していないが、頭ではわかっていた」という場合は?
また、もしかしたら「頭の中では、“オリンピック特有”のことを考慮したが、回答には入れていなかった」という方もいるかもしれません。
そのような場合は、「考えていることを、いかに表現し、相手に伝わる形式にするか」という能力を強化する必要があります。詳細な説明は、今回差し控えますが、「頭で考えていることを、ラフ・箇条書きでよいので、一度紙に書きだしてみる」といったプロセスを経て、その紙の中から何を表現するか決定し、その上で回答の記述を開始してみてください。そうすると、頭の中でなんとなくわかっていることを、より明瞭にでき、伝えるべき内容の優先順位が付けやすくなります。